行田協立診療所・ケアセンターさきたま
概要
日々暮らしやすく、健康を保つために、地域における医療と福祉の活動は重要な役割を担っ ている。世界保健機構 (WHO)は、「健康とは、完全に、身体、精神、及び社会的によい状態であることを意味し、単に病気ではないとか、虚弱でないということではない」と定義している。
医療福祉の施設は、病気と介護に対応する効率的な機能性を重視した計画が多くの割合を しめており、WHO の定義における「社会的によい状態」を保つための活動の場所は限られている。本計画は、病気のとき、心配なとき、元気なとき、地域の様々な人が関わりをもつ ことができて、健康な生活をおくるための新たな活動の場所をつくることを目指している。
約半年の限られた設計期間ではあったが、福祉を専門分野とする山田あすか先生 (東京電 機大学教授)と協働で、職員、利用者、地域住民とワークショップを行い、健康に関する新 たな活動について検討を行った。基本設計時は、既存施設の状況を確認し、現状の課題点を共有した。大型バスを借りて、類似施設を一緒に見学して、それぞれが見学で感じたことを 移動中の車内で語り合い、活動の理想像について模索した。実施設計、現場監理においても、 職員と利用者による委員会を設けて場所にかかわる様々な人と一緒に、多くの対話を通じて、細部まで設計内容を共有して、活動のイメージを深めた。
計画について
ワークショップで得られた知見から、医療福祉に関する横断的な活動が取り組めるように、 各スペースが隣接する状況をポジティブに捉え、様々な立場の人が活動の連携と共有を円滑 に進められるように配置、動線、空間、設えをつくることに重点を置いた。 既存診療所棟を使いながら建替えを行うにあたり、段階的な計画を考案して、前面道路側 中央に、地域包括支援センターを含む地域交流棟をハナレとして、オシノテラスを配置している。小さな木造平屋を個別に設けることで、診療所に用事がない人も気軽に立ち寄れる木の小屋としている。地域住民や小中学生が自由に立ち寄れる、地域の居場所である。誰でも自由に利用できる場として開放し、健康講座や体操、子ども食堂などのイベントも行われている。
隣接する忍中学校との境界には、視線を遮る高さの既存ブロック塀が設けられていたが、今回の計画では高さを抑えた見通しのよいフェンスに変更した。中学校の登下校、体育や部 活の様子、銀杏並木といった、隣接する地域の活動や景観を取り込む状況とした。
診療所棟 1 階は、RC 造壁式ラーメン構造の上にフラットスラブの床を配することで、2 階の木造の間取りの自由度を向上させ、異なる機能に対応できる構造計画とした。1F の RC 壁は、忍城の石垣がもつ遺構的存在感の連想から、普通型枠の裏面を用いて、ベニヤやコン クリートの素材感があらわれる仕上げとしている。RC 壁の出隅部分を逆三角錐状に切り取ることで、各室面積は縮小せずに、視線の廻り込みから空間の拡がりとつながりを生み出し ている。
2 階の木造屋根は、忍城公園の周辺環境との連続性をあたえるために、建物の平面形状を トレースし、ボリュームを抑えた寄棟屋根を採用した。入母屋を設け、EV 塔屋と組み合わ せて階段室に光を取り込みながら立面の顔をつくる。登梁形式とすることで、勾配屋根の空 間が内部にあらわれている。2 階の小規模多機能型居宅介護施設では、雁行したプランと勾配屋根の特徴から、利用者それぞれが居心地の良い場所を見つけられるように、一体感と奥行きがある住まいのような空間を設ける。屋根を一部切り欠きテラスとすることで、各所の内部空間に光や風を取り込む。南側のテラスと忍城天守閣や桜を望むことができる屋上の桜見テラスは、機能訓練を行いながら回遊できる動線としても利用され、誰でもアクセスできる場所としている。
地域の医療・福祉施設が、利用者、職員、地域住民との対話を通じて、様々な人が関われる健康活動の拠点となることにより、地域の特徴があらわれる豊かな生活へとつながる一助になれればと考えている。
原浩人 , 吉岡寛之
[建築概要]
主要用途:診療所( 内科、歯科、健康診断、訪問診療)
通所リハビリテーション
ケアセンター
( 訪問介護、訪問看護、居宅介護、定期巡回)
小規模多機能型居宅介護
地域包括支援センター
主要構造:RC 造一部S 造(1F)
木造一部S 造(2F) 在来軸組工法
規 模:地上2 階
敷地面積:2434.33 ㎡
建築面積:827.53 ㎡
延床面積:1402.01 ㎡
[主要仕上げ材料]
外部
屋根:ガルバリウム鋼板立てハゼ葺き、折板屋根
外壁:杉板、窯業系サイディング、SOLID
開口部:アルミサッシ、スチールサッシ
内部
床:長尺シート、杉フローリング、タイルカーペット
壁:石膏ボード+ クロス貼り( 一部エコフリース)
天井:岩綿吸音板、クロス
[クライアント]
医療生協さいたま生活協同組合
[協働設計]
ハラヒロト建築設計事務所 原 浩人
神奈川大学工学部建築学科 吉岡寛之
[建築計画 介護福祉関連]
東京電機大学未来科学部建築学科 山田あすか
[構造設計]
yAt構造事務所 森部康司・須藤崇
[設備設計]
ZO設計室 伊藤教子・根本晋吾
[ランドスケープデザイン]
GA ヤマザキ 山崎誠子・針谷未花
[家具デザイン]
藤森泰司アトリエ 藤森泰司・石橋亜紀
[サインデザイン]
マルヤマデザイン 丸山智也
[照明デザイン] 萩原克奈恵
[施工] 大野建設
photo:鳥村鋼一