川口診療所は、1953年に開設し70年以上の歴史を持つ診療所である。本計画は、1986年に竣工し老朽化した2代目の建物を建て替えるにあたり、通所リハビリテーション機能を持つ「川口診療所」、訪問介護、居宅介護支援、訪問看護を行う「ケアセンターすこやか」の2つの既存の用途に、新たに小規模多機能型居宅介護、定期巡回の事業を加え、「医療」と「介護」の地域拠点として再整備する計画である。
敷地は川口駅から徒歩10分程度の準工業地域の住宅街にあり、かつては鋳物工場が立ち並んでいた場所である。現在は保育園や小学校、市
のスポーツセンター、スーパーなどが近接し、様々な世代の人々が行き交う環境となっている。
私たちは、この建築を、川口の地域性を継承しつつ、地域の医療と介護の拠点として、住民が元気な時でも気軽に集まり交流できる複合施設として計画した。
計画地は荒川氾濫時の浸水地域であるため、構造はRC造の耐震壁付きラーメン構造とし、診療所や小規模多機能などの主要機能を2、3階に配置した。1階を開放的なピロティとし、地域住民が気軽に立ち寄れる場所として「こみてNAKAMACHIなかまち」を計画した。1階は駐車場や送迎の車寄せ、日曜健診スペース、休診日のイベント広場など様々な利用が可能な明るく見通しのよいピロティである。駐車場はキッチンカーや地場野菜の販売車、駄菓子屋、パン屋などの出店を想定し、屋内はキッチンやパントリー、授乳室などを設け、地域との交流を促す様々な取り組みに対応できるスペースとした。
建物は奥行きがあるため、外周部の窓から光が届きにくい中央部に鏡面ステンレス板を内側に貼ったライトコートを設け、各階に光と風を届けるデザインとした。これにより、1階駐車場にも光が差し込む明るく開放的なピロティが実現している。
通りに面して深い軒下空間を設け、行き交う人の流れを導く計画とした。通りに面したベンチは地域の人々の居場所となり、以前の診療所の外壁タイルを貼って過去の記憶を継承している。
利用者の縦動線である屋外階段やエレベーターを前面道路側に集約し、利便性を向上させるとともに、利用者やスタッフの動きを街に可視化させることで、建築の活動的な様子が施設の顔となる。通りに面したエレベーターシャフトは、キューポラ(鋳物工場の溶解炉)を想起させる色とし、通りからのアイキャッチとなると同時に、鋳物工場地帯であった地域の記憶を継承することを意図した。
2階は診療所とケアセンター(訪問介護、訪問看護、ヘルパーステーション、定期巡回)が入り、医療と福祉の連携を図っている。中廊下に面した診察室への入口の上部にダウンライトを組み込んだ木製の庇と吊りサインを設け、人を迎え入れる雰囲気をつくり心理的な閉塞感を軽減した。
ライトコート上部から降り注ぐ光が鏡面ステンレス板に反射し、時間とともに光の表情が変わる中廊下の待合である。3階は、小規模多機能型居宅介護(小多機)と通所リハビリテーション(通所リハ)が吹抜けを挟んで隣接し、引戸を開け放つことで両者のリビングが一体的につながり、イベント時に交流が可能となるよう計画した。吹抜けの周囲には水回りや相談室などを設け、それを囲うように回遊できる動線を設け、利用者のリハビリやスタッフの連携のための動線として計画した。
3階の外周部は傾斜した溝形鋼の縦ルーバーを設け、日射と外部からの視線をコントロールし、室内環境の快適性を向上させている。傾斜したルーバーによる外観は、かつての鋳物工場のシルエットを想起させることを意図し、ツタ系植物で垂直緑化することで日射を制御しつつ、周辺環境への景観配慮を行い、この地域の記憶をかすかに残しつつ、緑に覆われた新たな風景を創出する。
建物の外観に緑が育ち、利用者の動きが通りに面して表れ、行き交う地域の人々がピロティにふらっと立ち寄る。この建築が医療と福祉の取り組みを通じて行き交う人々のつながりを紡ぎ出し、誰もが暮らしやすい地域をつくる拠点となることを期待している。
主要用途:診療所( 内科、小児科、健康診断、訪問診療)
通所リハビリテーション
ケアセンター
( 訪問介護、訪問看護、居宅介護、定期巡回)
小規模多機能型居宅介護
主要構造:RC 造
規 模:地上3 階+ 塔屋
敷地面積: 919.63 ㎡
建築面積: 590.37 ㎡
延床面積:1752.37 ㎡
[ 主要仕上げ材料]
外部
屋根:コンクリート+ 改質アスファルトシート防水
外壁:コンクリート普通合板打放し、吹付タイル
開口部:アルミサッシ、スチールサッシ
軒天:不燃木、ケイカル板
内部
床:コンクリート直均し、長尺シート、P タイル、
タイルカーペット(OA フロア)、フローリング、畳
壁:コンクリート普通合板打放し、PB+ クロス貼り
天井:コンクリート普通合板打放し、岩綿吸音板、クロス、
ルーバー( 木+ 木毛セメント板) [ クライアント]
医療生協さいたま生活協同組合
[ 協働設計]
HHA ハラヒロト建築設計事務所 原 浩人
メゾン 吉岡 寛之
オクムラデザイン 奥村 雅俊
[ 建築計画アドバイザー ]
東京電機大学未来科学部建築学科 山田 あすか
[ 構造設計]
多田脩二構造設計事務所 多田 修二・遠藤 啓志
[ 設備設計]
ZO 設計室 伊藤 教子・根本 晋吾
[ 植栽監修]
GA ヤマザキ 山崎 誠子・針谷 未花
[ サインデザイン]
マルヤマデザイン 丸山 智也・野中優衣
[ 照明デザイン] 萩原 克奈恵
[ 施工] 大野建設






























